福岡家庭裁判所小倉支部 昭和50年(少)346号 決定
少年 T・H(昭三四・六・一七生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してあるポリ容器一個(昭和五〇年押第九一号の一)、現金一万四、一〇四円(同号の二)、腕時計一個(同号の三)、東芝ラジオ、カセットレコーダー一個(テープ入り、同号の四)、シガレットケース一個(同号の五)、タバコハイライト九個(同号の六)、カセットテープ九個(同号の七)、サングラス一個(同号の八)、木箱ケース入りスプライト四本、同空ビン一本(同号の九)は、これを被害者(氏名不詳)に還付する。
理由
1 審判に付すべき事由
(一) 強制措置許可申請事件
北九州市児童相談所長の本件送致事由の要旨は、少年は窃盗の非行により、昭和五〇年一月一三日当裁判所において教護院送致決定をうけ、同月一四日国立武蔵野学院に入所させられた者であるが、同学院寮内で喫煙行為をくり返し更に
(1) 同年二月二二日外出し、翌二三日帰寮し、
(2) 同年三月二日外出し、同月五日警察署に保護され、
(3) 同月七日外出し、同月一六日福岡県遠賀郡○○町○○町○番○○海水浴場で同県折尾警察署に保護され、それぞれ無断外出、外泊があつた。しかもその間に窃盗等をくり返し、その非行も常習悪質化しているので、開放施設での指導も限界にきており、六ヶ月間の強制措置を加えて性格の矯正と生活の指導をする必要があるというにある。
(二) 窃盗保護事件
(1) 上記教護院送致決定前の余罪として別紙犯罪一覧表一記載の如く他人の金品を窃取した。
(2) 上記国立武蔵野学院に入所し、無断外出、外泊中別紙犯罪一覧表二記載の如く他人の金品を窃取した。
(3) 法令の適用
刑法第二三五条、第六〇条
(三) 道路交通法違反保護事件
少年は公定委員会の運転免許を受けないで
(1) 昭和四九年一一月二九日午前零時五分頃北九州市○○○区○○○丁目○○ホテル前路上で普通貨物自動車を運転し(上記教護院送致決定前の余罪)
(2) Aと共謀のうえ、昭和五〇年三月一四日午前二時頃から同月一六日頃までの間福井県敦賀市○町○丁目○番地○田○司方前道路から福岡県遠賀郡○○町○○町○番○○海水浴場まで交互に普通乗用車を運転し
たものである。
(3) 法令の適用
道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号、(共謀の点については更に刑法第六〇条)
2 処遇理由
本件記録および当裁判所の調査、審判の結果によれば、少年は一〇歳の頃父母が離婚し、父と弟の三人で生活してきたが、父の病弱もあつて貧困かつ保護能力のない家庭の中で放任されて育ち、一一歳の頃から盗みの味を覚え、中学に入るや更にそれらの非行が多くなり昭和四九年一月二三日当裁判所で保護観察に付されたが依然として窃盗が続き(その間に別紙犯罪一覧表一記載の窃盗および上記(三)の(1)の無免許運転の罪も犯した)昭和五〇年一月三一日当裁判所で教護院送致の決定を受け国立武蔵野学院に入所したものである。しかして、本件強制措置許可申請の送致事由の事実は概ねこれを認めることができ、その無断外出、外泊中に別紙犯罪一覧表二記載の窃盗および上記(三)の(2)の無免許運転をなし、その窃盗の態様も大胆なものになりすでに習癖化している。加えて自動車を盗み危険な長途の無免許運転をすることにも抵抗感がなくなり、少年の非行性はかなり進んでいるものといわざるを得ない。少年の資質は鑑別所の鑑別結果通知書によれば知能はやや低く、典型的意志薄弱性格で、気が弱く、他からの誘惑には容易に崩れ易いことが指摘され、本件の学院からの無断外出、外泊も少年が自動車の運転をすることができることから他の学院生に誘惑されて敢行したものである。そうすると、少年はすでに学齢期も終えた一六歳に達していること、更に上記の無断外出、外泊の回数、態様および上記の窃盗等の非行を考えると、少年はすでに教護院である国立武蔵野学院の教護(強制措置を含めて)はもはや限界にきているものと認められるので、この際規律ある少年院に収容してその矯正教育を施すのが相当であると思われる。
よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して少年を中等少年院に送致し、主文掲記の各物件は別紙犯罪一覧表二記載の贓物又はその一部で被害者に還付すべき理由が明らかな物であるから少年法第一五条第二項、刑事訴訟法第三四七条第一項によりこれを被害者(氏名不詳)に還付し、なお強制措置許可申請事件については少年を少年院に送致する以上その必要がないのでこれを許さないことにし、主文のとおり決定する。
(裁判官 伊藤敦夫)
別紙 犯罪一覧表 一
番号
共犯者
非行年月日
非行場所
被害者
被害金品
価格(約)
1
A
昭和四九・一一・二六
午後九時頃
福岡県遠賀郡○○町○○○○○○神社前路上
○ロ○朝
普通貨物自動車 一台
一〇万円
2
B
同 四九・一一・二
午前九時五〇分頃
北九州市○○○区○○○○○×組 ○保○方
○保 ○
カメラ 一台
二六、〇〇〇円
3
AB
同 四九・一一・一一
午後九時頃
同区○○×丁目○の○○谷○成方前空地
○谷 ○成
普通貨物自動車 一台
一〇万円
4
同上
同日
午後九時三〇分頃
同区○○△丁目○○の○○○野○恵方前の自動車
○野 ○恵
ナンバープレート 一枚
5
同
昭和四九・一一・一一
午後一〇時頃
同区○○△丁目○○の○○○里○則方前の自動車
○里 ○則
ナンバープレート 一枚
6
ABC
同上 頃
福岡県遠賀郡○○町○○密航監視所内
○田 ○
布 団 一組
二、〇〇〇円
7
同
同日
午後一一時三〇分頃
北九州市○○区○○○○○丁目○番○川○一方前広場
○川 ○一
タイヤ 一本
七、〇〇〇円
8
同
四九・一一・一二
午後八時三〇分頃
同市○○区○田漁港漁船(○○丸)内
○坂○之
電池時計 一個
二、〇〇〇円
9
同
同上 頃
同上漁船(○○丸)内
○田 ○助
水中銃
一本水中用電灯 一個
一五、〇〇〇円
三、〇〇〇円
10
A
同 四九・一一・二六
午後九時頃
同市○○○区○○○丁目○の○○広○方前
○ 広○
原動機付自転車 一台
一五、〇〇〇円
11
CA
同 四九・一〇・二〇
午前九時頃
同区△△△丁目○の○○ニ○ド○崎店
○間○二郎
皮靴(バン) 一足
パンタロンシューズ 一足
五、八〇〇〇円
五、〇〇〇円
12
A
同 四九・一一・二三
午後二時頃
同区○○町○丁目○の○○上店
○上 ○子
ブレザー 一着
白セーター 一着
一三、五〇〇円
一、八〇〇円
13
AC
同 四九・一一・二九
午後一時三〇分頃
久留米市○○町○○の○ 久留米○ニ○ド国鉄駅前店
○本○
紺ズボン 一着
茶ズボン 一着
アスコットタイ 一本
三、五〇〇円
三、五〇〇円
一、九八〇円
14
同
同 四九・一一・一三
午後零時頃
大牟田市○○町○丁目○の○○○ニ○ド○牟○店
○ 広
ジャンバー 一枚
四、八〇〇円
15
同
同日
午後七時頃
同市以下不詳会社の寮
不詳
皮靴 一足
一、〇〇〇円
別紙 犯罪一覧表 二
番号
共犯者
非行年月日
非行場所
被害者
被害金品
金額(約)
1
D
昭和五〇・三・一四
午前二時頃
福井県敦賀市○町○の○ ○田○司方前路上
○田 ○司
普通乗用車 一台
六〇万円
2
同
同五〇・三・七頃
埼玉県内山の近くの民家
不詳
現金
一三万円
3
同
同日 頃
栃木県宇都宮市内民家
不詳
カセットラジオ 一台
一五、〇〇〇円
4
同
同 五〇・三・八
午後三時頃
同
不詳
シガレットケース 一個
男物腕時計 一個
五〇〇円
一五、〇〇〇円
5
同
同日
午後一時頃
同
不詳
タバコ 九個
(ハイライト)
七二〇円
6
同
同 五〇・三・一〇
午前零時頃
福井県敦賀市内に駐車中の自動車内
不詳
カセットテープ 九本
一三、五〇〇円
7
同
同 五〇・三・七
午後九時頃
富山県日本海沿岸のガソリンスタンド
不詳
ポリ容器 一個
五〇〇円
8
同
同 五〇・三・一三
午後零時頃
同沿岸に駐車中の自動車内
不詳
サングラス 一個
五〇〇円
9
同
同 五〇・三・一五
午前零時頃
同沿岸の店
不詳
(飲料水)
スプライト 一二本
一、二〇〇円
10
同
同 五〇・三・一四
午後九時頃
同沿岸に駐車中の自動車内
不詳
ガソリン
四リットル
四〇〇円